板野紙工のイノベーション

同友会西地区の7月例会で広島市佐伯区にある板野紙工の板野社長から発表をいただきました。

内容が素晴らしいので報告書を掲載致します。

 

株式会社板野紙工のイノベーション 「段ボールからパケクラへ」というタイトルで板野護社長より発表していただきました。下記はその時の発表内容です。

私の会社は大正時代の創業で私で4代目です。段ボールケース製作を長らく製造していました。 広島では針製造が盛んでしたのでそのパッケージを主に製作していたのです。

しかし時代は変化し、日本の針産業は急速に衰退しました。これまでは目の前の仕事をコツコツとしておれば仕事はこれからもあるだろうと考えていたけれども、そうはいかなくなりました。そして小さな変化を経ながら現在に至っているのです。

経営環境の激変により、我が社もこれでいいのか?変わらなければならないのではないか?我が社のイノベーションについて真剣に考えました。 有効な手だてが必要でそれは何か?

今でははっきりと言えます。「社内の全ての人間が全ての場面で創意工夫を怠らず常に少しでも合理的かつ確実に仕事を進める努力をする心構え。」これが我が社イノベーションです。

それに至るにはいくつかの時代を経なければなりませんでした。

 

変わろうと思っていなかった時代。「いつまでも仕事があると思っていた。」

変わろうと思うけれどもどうしていいかわからない時代。

一歩踏み出すけど変わりきれていない時代

自分自身が変化を始めた時代

最終的には変化を遂げた時代

 

自分自身が本気で変化をしようとしていること、これが重要です。

今振り返れば、過去の「本気」は「本気」ではなかった。本気の努力をした時のみ、真の進化になる。私はそう思います。

 

イノベーションのきっかけは同友会でした。同友会に入った年に同友会の広報委員会に入り、初めて取材の依頼を受けました。私は即座にお断りしたのです。「見るべきものはないですよと。しかし、富春さんから「それは違いますよ。ちゃんと自分たちを見つめてみれば必ず何かがありますよ。先代、先々代から引き継いで今日あるのだから必ず何かがちゃんと有るはずだ。そこを見つめる事が大切な事なんですよ。」と言われ、一晩考えた後、取材を引き受けました。そして広報の人たちが取材を終えて帰る時に、「板野さんのところには面白い形の段ボールがたくさんありますね」と声をかけていただきました。段ボール加工は自分たちにとってありふれたものだと思っていたが、同友会の取材で自分たちの技術の見直しをするきっかけになりました。

 

この段ボールで何をするん。どう飾るん?段ボール家具の失敗例での学びが始まりました。そして気づいたのです。「機能性だけではダメなのだデザイン性が必要なのだ」と痛感したのです。本気で変わる必要を感じたのはお客様からのダメ出しでした。「人に見ていただく準備ができていないですね。」あるデザイナーさんに指摘されました。私たちは甘かったのです。それからです。意匠設計のできるデザイナーを採用し、コンペにチャレンジし、そしてデザイン部門で入賞しました。私たちはその時「賞を貰ったから食っていけるね。」といったバク然とした希望的観測に社内が包まれました。が、しかし、売れません。何で売れないのか?本気で売ろうとしていないからではないか。私たちはこう考えたのです。そして段ボール家具というイメージがまだ定着していない時代に展示会でそれを痛感したのです。ところが、落ち込んでいる私たちの展示ブースに何時の間にか人だかりができました。それはティッシュボックスの販促グッズで、入場者にとても興味を持っていただきました。そうです。そのテッシュケースがパケクラの始まりです。パケクラとはパッケージクラフトの略称で、自分で組み立て、実用性も有る。東京ビッグサイトの展示会で注目を浴びたのです。しかし、東京はすごいです。プロモーターからの厳しい指摘。巨額の受注額にたじろぎました。こんなに製作出来るのか?資金繰りは大丈夫か?社内会議で初めて本気で議論しました。私たちは気づいたのです。自分たちはちゃんと仕事をしていたつもり。いい商品を作っていたつもり。それが今ではお客様には通用しない。厳しい指摘を正面から受け止めなくてはならない。「このプロジェクトに命をかけている。なので妥協はできない。」プロモーターも必死でした。眠れないぐらい考え、サンプリングしました。そして思ったのです。

 

「今までできなかった事は、やろうとしていなかっただけではないのか?

経営者自らが本気で取り組んでいなかったのではないのか?

プロとしての意識が欠落していたのではないのか?」

 

試行錯誤する中、本物の車の復元力が毎回毎回アップしている。今回は大阪だけだが2万個受注。この販促グッズで乗用車の受注につながるやりがい、本気の仕事。

集中して繰り返し繰り返し作ることがパケクラでは必要なのです。

意外な事にテッシュボックスカーはテッシュボックスとしてはほとんど使われないのです。それは飾り物として使用されているそうです。これはアートになっているんですね。

最後に同友会の仲間と本気で一緒に仕事をしよう。泥臭く提携して行こう。

そう思うんです。

最後にそう締めくくり板野社長の発表が終わり、続いてグループ討論に移りました。

テーマは「我が社のイノベーション」です。発表の中に随所に出てくる「本気」の言葉に参加者も熱くなり、我が社の「本気」のイノベーションを語り合いました。厳しい時代です。私たちは「本気」の基準を自ら引き上げる時であると全員で確認した中身の濃い7月例会になりました。板野社長、本当にありがとうございました。